「おたくは介護保険使えますか?」
大変多い問い合わせです。
介護タクシーというぐらいだから介護保険使えるだろうと思っている方は多いです。
毎回丁重に「申し訳ございません。弊社では取り扱っておりません」
と対応しています。
毎回この対応をするたびに心が痛みます。
なぜなら、これは間違った対応だからです。
本当はこのように対応しなければなりません。
「介護保険が使える介護タクシーなんてありませんよ」と。
目次
『介護タクシー』の名称について
介護保険タクシーの正体を探るためには『介護タクシー』の名称について触れておく必要があります。
『介護タクシー』という名称は正式な名称ではありません。
高齢者を対象とするイメージでなんとなく「介護」を付けたような感じです。
対象顧客を福祉(体の不自由な方や高齢者)に限定したタクシーですので
『福祉限定タクシー』もしくは『福祉タクシー』となるのが自然なんですけどね・・・
なのに何故か『介護タクシー』の名称は社会的に地位を確立しつつあります。
『介護タクシー』でいいじゃん・・という方もいらっしゃると思いますが、もう少しお付き合いください。
- 「介護」と言えるようなサービスをしていない
- 「介護」という言葉に難色を示すお客様が存在する
- 「介護」保険が使えそうなイメージを醸し出す
1.「介護」と言えるようなサービスをしていない
『福祉タクシー』で行うサービスは、介護の中のほんの一部しかありません。
例えばベッドから車椅子(またはその逆)への移乗介助、歩行時に傍らで支える歩行介助、車椅子で移動する車椅子介助、稀にトイレ介助や排せつ介助といったところでしょうか。
ちなみにまったく歩けない患者さんを担架等で運ぶのは搬送であり介護(介助)とは違います。
介護とは一人で日常生活を送ることが困難な人の生活全般を支援(精神的なケアを含む)し、自立を目指す行為のことを言います。介護施設の職員のようなプロフェッショナルが行っていることです。
2.「介護」という言葉に難色を示すお客様が存在する
私たちが対象とするお客様は、高齢者ばかりではありません。障がいのある若い方も多くいらっしゃいます。
介助が必要なのは変わらないのですが、「介護」という言葉には抵抗があるようです。そのようなお方は私たちのことを『介護タクシー』ではなく「福祉タクシー」と呼ぶからです。
最近はお年を召した方でも「とうとう介護タクシーの世話になるようになったか」と落胆される方や「介護タクシーだと! 老人呼ばわりするな!」と憤慨されるお客様もいます。
また「タクシーには介護タクシーって表示がありますか? できればそのような表示がない車で来てください」というお客様もいらっしゃいました。
少数派であることは間違いありませんが、やはりそのようなお客様がいる以上、事業者としては配慮が必要だと思うわけです。
3.「介護」保険が使えそうなイメージを醸し出す
「介護」といえば「介護保険」・・・誰もがすぐ思い浮かびます。
保険料払ってるんですからね・・そりゃ使えれば使いたいですよ。
あなたはちっとも悪くありません。
悪いのは「介護タクシー」の言い出しっぺですから。
番外編 福祉タクシー券使えますか?
「福祉タクシー券使えますか?」という問い合わせは「介護保険使えますか?」と同じくらい多いです。名称が福祉タクシーだったらこのような問い合わせはほとんどなくなるのではないでしょうか?
介護タクシーと介護保険
介護タクシー(以降福祉タクシーと呼びます)は、道路運送法で定められている旅客自動車運送事業の中の一般乗用旅客自動車運送事業に該当します。
一般乗用旅客自動車運送事業はさらにタクシーとハイヤーに区分されます。
福祉タクシーは対象顧客が限定されているとはいえ、顧客の希望する場所まで運ぶことはいわゆる一般のタクシーと同じです。
ハイヤーはタクシーと少し営業形態が異なりますが、タクシーと同じ括りになります。
さあ、この中で介護保険が使えるものは・・・ありません。
タクシー・ハイヤーとは顧客の需要に応じ貸切運送を行う乗り物です。
つまりどんな顧客でも(福祉タクシーは少し限定されていますが)、どこへでも行きたいときに利用できる交通機関です。
くどいですがタクシー・ハイヤーで介護保険が使えるものはこの世には存在しません。
しかし・・介護保険が使える乗り物は確かに存在します。
それは特定の顧客(福祉タクシーの限定とは違いものすごく範囲が狭い)を、決められた場所限定(しかも細かい条件付きで)で運ぶタクシーではない乗り物です。
介護保険タクシーと呼ばれている乗り物はタクシーではないのです。
介護保険タクシーの正体
旅客自動車運送事業の中には特定旅客自動車運送事業というものがあります。
これは何かというと、特定の範囲の人のみを決められた目的地へのみ運送する事業になります。
会社や学校などの送迎バスをイメージすればわかりやすいと思います。
そう・・・介護保険タクシーの正体は送迎バスなんです。
しかし、介護保険が使える送迎バスという言い方も正しくはありません。
特定の訪問介護事業所に送迎バスがあれば、それは介護保険が適用され安価に利用できるというのが正しい言い方です。
もっと言えば「通院のための乗車または降車の介助」といい、訪問介護サービスに含まれるサービスの1つなのです。
??? 何を言っているか訳が分からん・・という声が聞こえてきそうなのでご説明いたします。
会社や学校の送迎バスは外部に委託することがほとんどです。
バスを保有する会社は「特定旅客自動車運送事業」の認可を取得しており、依頼を受けた会社や学校の送迎を代行しています。
介護保険タクシーもといバスはどうでしょう・・
訪問介護事業所の病院送迎の委託を受ける会社を作って「特定旅客自動車運送事業」の認可を取得・・
できないのです。
「特定旅客自動車運送事業」の認可を取得するためにはまず、訪問介護事業所を作らなければならないからです。
そして介護保険が使える介護タクシーみたいなものを利用する恩恵にあずかれるのは
その介護事業所の利用者さんのみということです。
でもその利用者さんだったら使い放題かといえば
そうではありません。
次のような制限があるからです。
利用対象は要介護1~5の人。当然その事業所を利用している人。
利用目的は通院・預金の引き下ろし・投票や公共機関における日常生活に必要な申請や届け出等。
制限を超えた利用は一切できません。
なかなか介護保険を使わせてくれません・・・。
これらの条件に当てはまらない利用者さんは介護保険を使わなくてもいいからと思うかもしれませんが
介護保険を適用しなければ普通の運行ができるかといえばできません。
なぜならタクシーとしての認可を取っていないからです。
逆にタクシーとしての認可「一般乗用旅客自動車運送事業」の認可も取得しているなら話は別ですが。
利用する権利がある介護施設の利用者さんですら厳しい制限があるのに
介護施設とは無関係の人が介護保険を使うなんてことはあり得ないことです。
まとめ
介護保険が使える介護タクシーが幻想であるということがお分かりいただけましたでしょうか。
もう一度確認しておきましょう。
我々福祉タクシー事業者にとって全く脅威ではありません。
介護タクシーには介護保険が使えるものとそうでないものがあるということを伝えたいだけで
目の敵にしているわけではありません。
なのでこのサービスが運よく利用できる方は間違いなくお得なので利用を推奨します。
しかしあなたが大切にしている方の希望や思いをかなえることが出来るのは
やはり福祉タクシーしかありません。
1人でも多くの方に利用していただきたいと思っていますが
安くはない料金がネックとなっています。
事業者の事情を言えば福祉タクシーの運営は大変厳しいものがあり料金を下げることは非現実的です。
だから「介護タクシー券」なるものが将来出来ればといいなと思います。
そしたら今度は「介護タクシー券使えますか?」という問い合わせがあるかもしれませんね。
その時は「もちろん使えます!」と明るく答えたいなと思います。
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